インターネット依存・ゲーム障害への心理支援
先週に「東京公認心理師協会研修『大会2019』の中止」について書きました。
sinri-psychology.hatenablog.com
それと同様に、本日(3月15日)行われる予定だった「インターネット依存・ゲーム障害への心理支援」も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止の観点から実施が見送られました。
インターネット依存やゲーム障害は今後増えていくと思われるので、是非とも参加したかったのですが、この状況では仕方ないですね。
研修が中止になってしまったので、その代わりにはならないですが、インターネット依存・ゲーム障害についてまとめてみたいと思います。
インターネット依存・ゲーム障害
インターネットやスマートフォン、タブレットPC、オンラインゲーム、SNSなどの急速な広がりにより、それらを長時間使用し、依存する人が出てきました。それにより学校や会社に行けない人も現れ、社会問題化してきました。
診断基準
DSM-5:インターネットゲーム障害
このような情勢を受けて、アメリカ精神医学会はDSM-5の「今後の研究のための病態」において、「インターネットゲーム障害」(internet gaming disorder)という研究用診断基準を設けています。
「今後の研究のための病態」は、公式な精神疾患診断として採用するための証拠が不十分であるため、診断基準として臨床においては用いることができない。しかし、今後の研究が推奨されるため、研究用診断基準が設けられたものをいいます。
つまり、以下に示す基準は正式な診断基準ではなく、あくまでも研究用の診断基準です。
インターネットゲーム障害の研究用診断基準
臨床的に意味のある機能障害や苦痛を引き起こす持続的かつ反復的な、しばしば他のプレーヤーとともにゲームをするためのインターネットの使用で、過去12か月の間に 以下の項目のうち、5つ以上が当てはまる
- インターネットゲームへのとらわれ(過去のゲームに関する活動の事を考えるか、次のゲームを楽しみに待つ;インターネットゲームが日々の生活の中での主要な活動になる)
- インターネットゲームが取り去られた際の離脱症状(これらの症状は典型的には、いらいら、不安、または悲しさによって特徴づけられるが、薬理学的な離脱の生理学的徴候はない)
- 耐性、すなわちインターネットゲームに費やす時間が増大していくことの必要性
- インターネットゲームにかかわることを制御する試みの不成功があること
- インターネットゲームの結果として生じる、インターネットゲーム以外の過去の趣味や娯楽への興味の喪失
- 心理社会的な問題を知っているにも関わらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける
- 家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度について嘘をついたことがある
- 否定的な気分(例:無力感、罪責感、不安)を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する
- インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある
DSM-5では、インターネットゲーム障害について以下のような記述が見られます。
<診断的特徴>
・インターネットゲーム障害は、ゲームに対する制御の欠如の進行性、耐性、および離脱症状など、認知、行動面での一連の症状につながるような過剰かつ長期化するインターネットゲームしようの様式であり、それは物質使用障害の諸症状に類似する。
・ほかの活動は無視するにもかかわらず、ゲーム活動は1日あたり8~10時間あるいはそれ以上、週あたり最低30時間がこの活動に向けられる。
・ゲームに戻ることを禁じられると、いらいらし、怒り始める。
<鑑別診断>
・オンラインゲームの使用を含まない過剰なインターネットの使用(例:フェイスブックなどのソーシャルメディアの過剰な使用)はインターネットゲーム障害と類似のものとはみなされない。
・オンラインでの過剰なギャンブルはギャンブル障害という別の診断が適当である。
ICD-11:ゲーム症(障害)
WHO(世界保健機構)が作成している国際疾病分類の次の改定(ICD-11)において、「ゲーム症(障害)(Gaming disorder)」が正式な疾病として認定されました。
ICD-11ではゲーム症(障害)は、以下のように分類されています。
物質使用症(障害)群または嗜癖行動症(障害)群
嗜癖行動症(障害)群
ゲーム症(障害)
ゲーム症(障害)、主にオンライン
ゲーム症(障害)、主にオフライン
ゲーム症(障害)、特定不能
物質使用症(障害)は、アルコールや大麻、覚せい剤、ニコチンなどの使用による障害、他の嗜癖症(障害)は、ギャンブル症(障害)、嗜癖行動症(障害)があります。
分類については、日本精神神経学会ICD-11新病名の草案が分かりやすくまとめられています。
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/ICD-11Beta_Name_of_Mental_Disorders%20List(tentative)20180601.pdf
ゲーム症(障害)(Gaming disorder)の診断基準
持続的または反復的なゲーム行動(「デジタルゲーム」または「ビデオゲーム」、それはオンラインすなわちインターネット上、またはオフラインかもしれない)の様式(パターン)によって特徴づけられる。
- ゲームをすることに対する制御の障害(例:開始、頻度、強度、持続時間、終了、状況)。
- ゲームに没頭することへの優先順位が高まり、他の生活上の利益や日常の活動よりもゲームをすることが優先される。
- 否定的な(マイナスの)結果が生じているにもかかわらず、ゲームの使用が持続、またはエスカレートする。
その行動様式は、個人的、家庭的、社会的、学業的、職業的または他の重要な機能領域において著しい障害をもたらすほど十分に重篤なものである。
ゲーム行動の様式は、持続的または一時的そして反復的かもしれない。
ゲーム行動および他の特徴は、診断するために通常少なくとも12ヶ月の間にわたって明らかである。しかし、すべての診断要件が満たされ症状が重度であれば、必要な期間は短縮するかもしれない。
これをまとめると、以下のようになります。
- ゲームをすることをコントロールできない(頻度が多い、時間が長い、止められない、どんな状況でもやってしまう)
- 日常生活よりもゲームを優先する
- 健康や勉強、仕事などに問題が起きてもゲームを続けるまたはエスカレートする
- 家族や社会、学習、仕事に重大な支障が生じている
- 上記の状態が1年以上続いている(しかし、すべての条件に当てはまり、症状が深刻な場合、1年未満であってもゲーム障害と診断される場合がある)
DSM-5とICD-11の基準の違い
個人的な理解に基づくものですが、以下のような違いがあるように思われます。
- DSM-5は研究用診断基準ですが、ICD-11の基準よりも項目が多く、さらに記述が具体的なので内容が分かりやすい
- DSM-5ではインターネットを介して、人々が集団で行うゲームを主に想定していると思われる。そのため”インターネット”ゲーム障害としているのだろう。ICD-11では、インターネットを介しているかどうかは関係ないようです。そのため、下位分類で、”主にオンライン”、”主にオフライン”と分類しているのだろう。
- DSM-5のインターネットゲーム障害では、オンラインゲームの使用を含まない過剰なインターネットの使用との鑑別診断を書いていますが、過剰なインターネットの使用がどの診断に当てはまるのかは書いていないので、わかりませんでした。
まとめ
- DSM-5では、インターネットゲーム障害(internet gaming disorder)
- ICD-11では、ゲーム症(障害)(Gaming disorder)
- ゲームをコントロールできなくなり、本人や家族に支障が出ている状態
ゲーム障害は新しい概念であるため、支援者が不足しています。ゲーム障害の予防や心理支援については、次回のブログで紹介しようと思います。
新型コロナウイルスにより相次ぐ研修会の中止
新型コロナウイルスの影響で研修会が中止に
本日3月8日(日)に予定されていた研修『大会2019』が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止の観点から実施が見送られました。
この研修は以下のような趣旨で行われるもののようです。
2年に一度開催する職能団体としての大規模総合研修会を下記の日程で開催いたします。
今回の大会は公認心理師と臨床心理士を正会員とする東京公認心理師協会としての初めての大会となります。
すでに公認心理師制度のもと新たな要請が寄せられていますが、これまで培ってきたものを発揮しながら応えていくことが期待されます。
「これからの心理支援」について、公認心理師と臨床心理士が一同に会して共に考える時間にいたします。
元々この研修は2019年10月13日(日)に予定されていました。しかし、台風19号の接近に伴い、十分な安全確保ができないおそれがあること、交通機関に相応の影響が見込まれることなどから開催が見合されました。そして、2020年3月8日(日) に延期になったという経緯がありました。
厚労省が2月20日(木)に「イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ」を出しました。イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ
それを受けて、新型コロナウイルスの感染防止の観点から、東京公認心理師協会が2月22日(土)に『大会2019』を含めた今年度内の研修会の実施をすべて見送ると発表しました。一般社団法人 東京臨床心理士会 | お知らせ
台風で延期になった研修を今度は中止にするという判断は難しかったと思いますが、なかなかに迅速な対応だったのではないでしょうか。
返金のお知らせもすぐに送られてきました。『大会2019』の募集定員は700名なので、返金作業もかなりの手間でしょうね。
自分が申し込んでいた他の研修会も中止になりましたし、周囲のカウンセラーが参加するはずだった学会等が中止や延期になっているという話もたくさん聞きました。その一方で、オンラインで行う研修や5月以降の研修の情報が少しずつ出てきました。
臨床心理士資格更新はどうなる?
臨床心理士の資格は5年ごとの更新制で、5年間に15ポイント以上を取得する必要があります。
臨床心理士資格認定事業 | 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会
『大会2019』もこのポイントになると思われますし、日本臨床心理士会との共同主催なので、おそらくポイントの区分でいうと②のポイントになるのではないでしょうか。もし、今年度資格更新する人で、この『大会2019』に参加することで15ポイント以上になる人がいた場合、資格更新はできるのでしょうか?更新期間を延ばすか、代替研修を受けされるかなど、何かしらの特例措置はあるのでしょうか?
今後の研修や勉強会について
今年度の研修会や勉強会の中止や延期のお知らせがこの1~2週間で一気に出ましたが、その一方で5月以降開催のお知らせも出始めています。
この状況がいつごろ収束するのかはいまのところ見通せない状況なので、みなさん5月以降の研修会も申し込みにくいと思います。
延期になった場合、その延期日に他の予定がすでに入っていて参加できるとは限らないですし、返金の場合は手続きも手間ですよね。近場の研修会で手軽に参加できるものであればまだいいですが、遠方から来る方は新幹線や宿のキャンセルの手間もあるし、場合によってはキャンセル料が発生します。小さいお子さんがいらっしゃる方だと何回も予定が変わると参加が難しくなるかもしれません。
最近では、Zoomなどでのオンライン研修会もあるようですが、資格更新ポイントが発行されるものでは実施は難しいかもしれないですね。Zoomミーティング - Zoom
今はとにかく各個人ができる対策をしつつ、なるべく早く収束に向かうことを願うばかりですね。
痴漢防止アプリってなに?JRが行う実証実験
テレビやネットのニュース等ですでにご存じの方も多いと思いますが、タイトルの通り、JR東日本が痴漢防止アプリを実証実験するそうです。
JR東日本が導入を検討しているアプリについてまとめてみたいと思います。
JR東日本の取り組み
JR東日本は痴漢防止対策に関する実証実験の実施についてにおいて、以下のように発表しています(一部抜粋)
社会的な課題の一つである痴漢問題の解決に向けて、国立情報学研究所の新井紀子教授をはじめ、有識者の方々から有益なご意見をいただきながら、お客さまが列車内で痴漢行為を受けた際に、スマートフォンの専用アプリにより車掌へ通報するシステムの検討を進めてきました。
このたび、このシステムの効果等を検証するため、列車内で実証実験を行います。
全文をご覧になりたい方は以下のPDFをご覧ください。
https://www.jreast.co.jp/press/2019/20200204_ho02.pdf
アプリの内容
- アプリをインストールしている人が痴漢行為を受けた時に、アプリのボタンを押すことで車掌に通報できる
- 車掌は、携帯するタブレット端末内の専用アプリの通告内容に基づき、注意喚起の車内放送を行う
いくつかのネットニュースを読むと、痴漢行為を受けている位置の特定には本人がアプリに入力する、GPS機能を使うと、両方の記述が見られました。
また、周りで同じアプリを入れたスマホを持つ人にも通報する、音を鳴らして周りに気付いてもらう、といった機能があるとの記事もありました。
実際に導入された時にどのような機能が搭載されているのかはJR東日本からの続報を待ちたいと思います。
導入実験のプロセス
導入実験は第1ステップと第2ステップに分けて行われる予定です。
ステップ1
期間:2月下旬~3月中旬(土休日は除く)
時間帯:7:00頃~10:00頃
実験概要:
・社員およびモニターが専用アプリのボタンを押す
・車掌が車内放送(試験)にて注意喚起
※車内放送は3パターン
パターン1:一般的なマナー放送 例)「痴漢を見かけた方はお知らせください」
パターン2:迷惑行為があったことを伝える放送 例)「車内のお客さまより迷惑行為の連絡がありました」
パターン3:〇号車から痴漢通報があったことを伝える放送 例)「〇号車のお客さまより、痴漢の通報がありました」
・お客様アンケートによる調査
ステップ2
期間:第1ステップの結果を踏まえて、6月以降
場所:埼京線車内
実験概要:
・モニターが専用アプリのボタンを押す
・車掌が車内放送にて注意喚起および最寄り駅の駅員と連携(警察への通報等)
※車内放送は1パターン
・モニターアンケートによる調査
まとめ
JR東日本が実証実験を行う痴漢防止アプリの機能、実証実験の時期や内容についてまとめてみました。痴漢防止アプリは他にもいくつかあります。ダウンロードを検討する際の参考にしてもらえたらと思います。
痴漢行為を止めたい、再犯を防止したいというご本人やご家族からのご相談はやまき心理臨床オフィスで承っております。
重要なのは数!ストレスをうまく対処するためのコーピングリスト作成のコツ
ストレスマネジメントとは、ストレスの原因を知り、その原因やストレス反応に対処する方法や考え方のことです。
自分にとってのストレスの原因を知り、自分に出ているストレス反応を少しでも早く自覚し、様々な方法で対処できるようになることを目指します。
人が生きていく上でストレスと無縁ではいられませんが、対処方法と考え方を使ってうまくストレスと付き合えるようになりましょう。
ストレスとは
ストレスは元々、「外側からかかる力による物体の歪み」といった意味で用いられていました。
それが現在、私たちが用いている意味でストレスという言葉を最初に用いたのはオーストラリアの生理学者であるハンス・セリエ(Hans Selye)と言われています。
一般的には、ストレスの原因も、ストレスによって引き起こされる反応も「ストレス」と言いますが、ストレスの原因のことをストレッサー、ストレスによって引き起こされた反応のことをストレス反応と分けて言います。
ストレスはなるべく少ない方が良い物、減らした方が良い物として語られることが多いですが、適度なストレスがあった方が人はパフォーマンスを発揮しやすいと言われています。
ストレスの原因
ストレスに対処するためには、まずストレスの原因には、どのようなものがあるのかを知ることが必要です。そして、その中で自分にとってよりストレスとなっている原因を把握することが重要です。
ストレッサーの種類
ストレッサーにはどのような種類があるのでしょうか?様々な捉え方によってストレッサーの種類も異なります。例えば、以下のような捉え方があります。
職場のストレス要因
社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale:SRRS)
米国の社会学者ホームズと内科医レイによって1967年に作成された、人々のライフサイクル上に起こるイベントをストレッサーとし、そのストレス度合いをまとめたものです。配偶者の死が100、結婚が50となっています。
ストレス反応
ストレス反応は、大きく分けて3つの側面に出ます。
人によって出やすいストレス反応の傾向があります。例えば、ストレスがかかるとまず頭痛がする人は他のストレスがかかった時にも、頭痛がまずストレス反応として出ることが多いです。
自分の出やすいストレス反応を覚えておくと、ストレス反応を軽症のうちに早期発見しやすくなります。
コーピング
ストレスへの対処方略のことをコーピングと言います。コーピングの種類は大きく分けると、問題焦点型コーピングと情報焦点型コーピングの2つがあります。
問題焦点型コーピング
ストレッサーに対して働きかけ、それ自体を変化させて解決を図ること。
- 家族や友人、同僚、先輩、専門家などに相談する
- 何がストレスになっているのかを分析し、そのストレスを軽減するように働きかける
- 人間関係や環境から遠ざかる
- 問題解決を図る
例えば、職場の同僚との関係がストレッサーであれば、同僚や上司に相談する、同僚との関係がうまくいっていない原因を分析し、対策を考えて実行する、異動願を出すといったことが考えられます。
情動焦点型コーピング
ストレッサーに対して働きかけるのではなく、自分自身の考え方、受け止め方を変えることでストレスを軽減すること。
- 気晴らしに好きなことをする
- 友人に愚痴る
- 深呼吸する
- 仕方がないと割り切る
コーピングリスト
ストレス反応が出た時に、自分のコーピングは何かを考えて実行するのは大変です。そのため、自分自身がすでにしているコーピングを書き出し(またはスマホにメモして)、リストにしておくと、ストレス反応が出た時にそのリストの中から選んで実行しやすくなります。
コーピングリスト作成のコツ
- たくさんのコーピングを書き出す
- なるべく具体的にする
- 時間、労力、お金があまりかからないものにする
コーピングの候補がたくさんあった方が、このストレスにはこのコーピングを試すというふうに選びやすくなりますし、このコーピングでうまくいかなかったから、こっちのコーピングを試してみようといろいろと試しやすくなります。
コーピングをたくさん書くためのコツは細かくすることです。例えば、以下のような感じです。
①ディズニーランドに行く
ディズニーランドに行くのがストレス発散だとしても、ストレスが溜まるたびにディズニーランドに行くというのは時間的、金銭的に難しい。1デーパスポート(大人)で7500円です。【公式】東京ディズニーランド | 東京ディズニーランド
これを細かくすると以下のようになります
①ディズニーランドに行く予定を立てる
②ディズニーランドに行く
③ディズニーランドに行った時に撮った写真を見返す
④ディズニーランドを紹介しているブログを見る
このように細かくすると、コーピングの数が増えますし、お金や時間がそんなにかからないで行いやすいものになりました。④ディズニーランドを紹介しているブログを見る、についてはブックマークしておくとさらにやりやすくなります。ストレスで疲れている時にわざわざディズニーランドを紹介しているブログを探すのは大変ですからね。細かくして、具体的にしていくと、お金も時間も労力もそれほどかからない、やりやすいコーピングリストができると思います。
ストレスが溜まった時にコーピングリストの中から意識的にコーピングを選ぶようにすると、ストレスAにはこのコーピングをする、ストレスBにはこのコーピングをするというふうに、傾向が出てきます。
例えば、仕事でミスをした時にはこの音楽を聴く、家族と喧嘩をした時にはこの音楽を聴くといったようなことです。
このように、同じ”音楽を聴く”でも、ストレスによって聴くアーティストや曲調などが異なるかもしれません。その傾向を把握するためにも、具体的に細かくして書いておいた方がいいでしょう。
まとめ
ストレスの多い現代社会において意識的にストレスを対処することはとても重要です。対処をするためには、以下のことが重要です。
- 自分のストレッサーを把握する
- 自分のストレス反応の傾向を知る
- 様々なコーピングで対処する
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今回の内容に興味を持った方は以下の記事もご覧ください。
生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入
カウンセリングには様々な流派や技法、アプローチがあり、それぞれの理論に基づいたアセスメントと介入の方法が存在します。
初学者のうちは特に、どのアプローチを学んだらよいのか迷うことが多いと思います。また、他のカウンセラーや対人援助職(例えば、医療系であれば看護師、教育系であれば学校の先生等)と情報共有やケースカンファレンスをする際に、前提となるアプローチの仕方やケースの見立てが異なっていると、やり取りに苦慮することもあります。
そのような際に活用しやすい生物心理社会モデルと用いたアセスメントと介入を今回は紹介します。
生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入の具体例
生物心理社会モデルは疾患を生物学的要因、心理的要因、社会的要因の3つの要因から総合的に捉え、介入アプローチを考えます。
生物心理社会モデルの基本的な内容を知りたい方はこちらを参照してください。
生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入の概要
生物心理社会モデルに基づいて、クライアントを包括的にアセスメントし、そのアセスメントに基づいた介入方法の立案までの方法とフォーマットを、近藤直司先生が作成しています。
医療・保健・福祉・心理専門職のためのアセスメント技術を高めるハンドブック【第2版】――ケースレポートの方法からケース検討会議の技術まで
近藤先生は精神科医として、精神保健センターと児童相談所で勤務されている時期に、ケース検討会議や事例検討形式の研修などでケースレポートを聴く回数が多くありました。そのような経験から、ケース検討会議の効率化、事例検討形式の研修の効果を高めるため、アセスメントの力量を高めるために、ケースレポートの方法を作成しました。元々はケースレポートの作成・ケース検討会議のための方法として考えられましたが、個別のカウンセリングにも十分応用できます。
この方法は情報収集-アセスメント-支援課題-支援計画という4つの段階に分けて考えます。
生物心理社会モデルを用いたアプローチの具体例
情報収集
情報はカウンセリング中にクライアントが話された内容だけでなく、表情や仕草といった客観的に見えるもの、客観的データなども含まれます。
例えば、不登校気味の児童とのカウンセリングであれば、以下のようになります。
- 「A君とは仲良しだよ」と言っている。
- 暗い表情で、小さい声でしゃべる。
- テストの結果(算数〇点、国語△点)
この情報は次のアセスメントと明確に分けることが重要です。情報は客観的に観測が可能なものであり、アセスメントはその情報を基にした解釈や推測(主観)です。
アセスメント
アセスメントは、生物的、心理的、社会的の3つの要因に分けて考えます。アセスメントは主観的な解釈、理解、仮説のため、絶対の正解というものはありません。しかし、なるべく正確なアセスメントをするためには、情報との整合性を考えることが重要です。
今回はわかりやすく生物的、心理的、社会的要因にきっちりと分けていますが、実際の臨床でアセスメントしていくと、どの要因に分けていいのかわからない場合も出てくると思います。その場合は厳密にどちらかの要因に分ける必要はありません。生物的要因と心理的要因といった複合的要因にまたがる場合も十分に考えられます。
上記の例をアセスメントすると以下のようになります。
- 相性の良い子とであれば、良好な対人関係を築けるのだろう(社会的)
- 自尊心が低く、自分を表現することが苦手と思われる(心理的)
- 生得的に知的発達の遅れがあるのかもしれない(生物的)
支援課題
アセスメントに基づき、必要と思われる支援課題を考えます。抽象的な表現ではなく、実際に介入が可能な課題を立てていきます。あまりにも大きな課題だと支援計画を考えにくくなるため、これなら支援できそうと思えるくらいの課題を立てるのが重要です。
今までの例で言うと、以下のようになります。
- 登校しやすい環境設定
- 自分を表現する機会の確保
- 知的能力の評価
支援計画
支援課題に対応した具体的介入プランを考えます。具体的な支援プランというのは、「誰が」「どんな方法で」「いつまでに」をはっきりさせることです。例えば以下のようになります。
- 今度の席替えの時にA君と同じ班になるように担任が調整する。
- 週1回、自分を表現できるようなカウンセリングをカウンセラーが行う。
- 1か月以内に、子どものWISC受検について担任が保護者に提案する。
今回は例のため、1つの情報に対して→1つのアセスメント→1つの支援課題→1つの支援計画としましたが、実際にはいくつもの情報から1つのアセスメントをすることになります。
生物心理社会モデルを活用するメリット
カウンセラーとしてのスキルアップ
この生物心理社会モデルを意識することで、カウンセラーとして重要なスキルが上がると思われます。
情報収集-アセスメント-支援課題-支援計画という4つの段階を意識することで、どこが足りないのか、どこを改善したらいいのかが分かりやすいです。
支援課題と支援計画を立てにくい理由として、アセスメントが不足していることが分かれば、どの情報が必要なのかが分かりやすいため、必要な情報を得るための意図を持った質問をしやすくなります。また、情報収集したどの客観的情報によってどのようにアセスメントしたかが分かりやすいため、アセスメント力が身に付きやすいです。
情報共有やケースカンファレンスがしやすくなる
皆さんは誰かと情報共有する時に、もっとわかりやすく伝えられたら良かったのに、と思ったことはありませんか?ケースカンファレンスで話し合ったけど、誰が何をしたらいいのかわからないまま終わったことはありませんか?このモデルを活用すると、情報共有やケースカンファレンスがしやすくなります。
例えば、上記の例であれば「この子はテストの結果が算数〇点、国語△点でした。そのため、生得的に知的発達の遅れがあるのかもしれません。そのため、まずは知的能力の評価が必要だと考えます。知的能力の評価をするために、子どものWISC受検について担任が保護者に提案するのはいかがでしょうか?」と言うことが出来ます。これは、この情報から、このようにアセスメントしました。それに基づき、このような支援課題があり、このような介入が考えられる、という流れで話しています。
他職種連携がしやすくなる
カウンセラーは様々な領域で、様々な職種の人達と連携しながら支援することが多いですが、各専門家のスタンスや拠って立つ理論が異なるために、必ずしも連携がやりやすいとは限りません。このモデルは汎用性が高く、どの領域、どの職種の人達との連携にも活用できます。
まとめ
今回は生物心理社会モデルと用いたアセスメントと介入を紹介しました。
あまりメジャーではないかもしれませんが、非常に汎用性が高く、シンプルなモデルのため、使いやすいと思います。
また、このモデルを意識することでカウンセラーのスキルアップが期待できたり、他職種との連携やケースカンファレンスがしやすくなったりしますので、活用してみてはいかがでしょうか。
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生物心理社会モデル
生物心理社会モデル(bio-psycho-social model)はジョージエンゲルが1977年に提唱した、人間の疾患を包括的に理解し、アプローチするためのモデルです。
このモデルは疾患を生物的要因からだけではなく、個人の心理的要因、個人を取り巻く社会的要因の3つの要因から総合的に捉え、介入アプローチを考えます。
生物心理社会モデルの特徴は、①3つの側面から、さまざまな関連要因を包括的に扱っている点、要因どうしが複雑に相互用しあって個人に影響を及ぼしていると考える点です。
このモデルを活用することにより、個人の身体的・精神的疾患に対して多面的なアプローチが可能となり、介入や援助をさまざまなレベルで提供しやすくなります。
3つの要因とは以下のようになります。
●生物的要因
生得的疾患、発達特性、身体症状、生来的気質など
●心理的要因
感情、認知、ストレス、自己効力感、対処行動、無意識など
●社会的要因
家族との関係、社会(学校、職場、コミュニティ)との関係、福祉、ソーシャルサポート、経済的状況、居住地や属しているコミュニティの風土や慣習など
カウンセラーは心理的要因を重視しやすく、生物的要因、社会的要因が抜け落ちやすいと思います。
相談者のさまざまな要因を包括的にアセスメントし、それぞれの要因へのアプローチができることが、重要です。
ブログ書いていきます
これからブログを書いていきたいと思います。
ブログの内容は、主に心理学のちょっとした知識、心理学と近接領域のこと、参加した学会や勉強会のことなどにしようと思っています(変わるかもしれませんが)。