心理学ブログ

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ゲーム障害やネット依存などの依存を中心に、30代半ばの中堅公認心理師(臨床心理士)が心理学の知識や関連する話題などについて書いていきます

インターネット依存・ゲーム障害への心理支援

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先週に「東京公認心理師協会研修『大会2019』の中止」について書きました。

sinri-psychology.hatenablog.com

 それと同様に、本日(3月15日)行われる予定だった「インターネット依存・ゲーム障害への心理支援」も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止の観点から実施が見送られました。
 インターネット依存やゲーム障害は今後増えていくと思われるので、是非とも参加したかったのですが、この状況では仕方ないですね。
 研修が中止になってしまったので、その代わりにはならないですが、インターネット依存・ゲーム障害についてまとめてみたいと思います。

インターネット依存・ゲーム障害

 インターネットやスマートフォンタブレットPC、オンラインゲーム、SNSなどの急速な広がりにより、それらを長時間使用し、依存する人が出てきました。それにより学校や会社に行けない人も現れ、社会問題化してきました。

診断基準

DSM-5:インターネットゲーム障害

 このような情勢を受けて、アメリカ精神医学会はDSM-5の「今後の研究のための病態」において、「インターネットゲーム障害」(internet gaming disorder)という研究用診断基準を設けています。
 「今後の研究のための病態」は、公式な精神疾患診断として採用するための証拠が不十分であるため、診断基準として臨床においては用いることができない。しかし、今後の研究が推奨されるため、研究用診断基準が設けられたものをいいます。
 つまり、以下に示す基準は正式な診断基準ではなく、あくまでも研究用の診断基準です。

インターネットゲーム障害の研究用診断基準

臨床的に意味のある機能障害や苦痛を引き起こす持続的かつ反復的な、しばしば他のプレーヤーとともにゲームをするためのインターネットの使用で、過去12か月の間に 以下の項目のうち、5つ以上が当てはまる

  1. インターネットゲームへのとらわれ(過去のゲームに関する活動の事を考えるか、次のゲームを楽しみに待つ;インターネットゲームが日々の生活の中での主要な活動になる)
  2. インターネットゲームが取り去られた際の離脱症状(これらの症状は典型的には、いらいら、不安、または悲しさによって特徴づけられるが、薬理学的な離脱の生理学的徴候はない)
  3. 耐性、すなわちインターネットゲームに費やす時間が増大していくことの必要性
  4. インターネットゲームにかかわることを制御する試みの不成功があること
  5. インターネットゲームの結果として生じる、インターネットゲーム以外の過去の趣味や娯楽への興味の喪失
  6. 心理社会的な問題を知っているにも関わらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける
  7. 家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度について嘘をついたことがある
  8. 否定的な気分(例:無力感、罪責感、不安)を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する
  9. インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある 

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアルより引用) 

 DSM-5では、インターネットゲーム障害について以下のような記述が見られます。

<診断的特徴>
・インターネットゲーム障害は、ゲームに対する制御の欠如の進行性、耐性、および離脱症状など、認知、行動面での一連の症状につながるような過剰かつ長期化するインターネットゲームしようの様式であり、それは物質使用障害の諸症状に類似する。
・ほかの活動は無視するにもかかわらず、ゲーム活動は1日あたり8~10時間あるいはそれ以上、週あたり最低30時間がこの活動に向けられる。
・ゲームに戻ることを禁じられると、いらいらし、怒り始める。
<鑑別診断>
・オンラインゲームの使用を含まない過剰なインターネットの使用(例:フェイスブックなどのソーシャルメディアの過剰な使用)はインターネットゲーム障害と類似のものとはみなされない。
・オンラインでの過剰なギャンブルはギャンブル障害という別の診断が適当である。

ICD-11:ゲーム症(障害)

 WHO(世界保健機構)が作成している国際疾病分類の次の改定(ICD-11)において、「ゲーム症(障害)(Gaming disorder)」が正式な疾病として認定されました。
ICD-11ではゲーム症(障害)は、以下のように分類されています。

物質使用症(障害)群または嗜癖行動症(障害)群
 嗜癖行動症(障害)群
  ゲーム症(障害)
   ゲーム症(障害)、主にオンライン
   ゲーム症(障害)、主にオフライン
   ゲーム症(障害)、特定不能
物質使用症(障害)は、アルコールや大麻覚せい剤、ニコチンなどの使用による障害、他の嗜癖症(障害)は、ギャンブル症(障害)、嗜癖行動症(障害)があります。
分類については、日本精神神経学会ICD-11新病名の草案が分かりやすくまとめられています。
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/ICD-11Beta_Name_of_Mental_Disorders%20List(tentative)20180601.pdf

ゲーム症(障害)(Gaming disorder)の診断基準

 持続的または反復的なゲーム行動(「デジタルゲーム」または「ビデオゲーム」、それはオンラインすなわちインターネット上、またはオフラインかもしれない)の様式(パターン)によって特徴づけられる。

  1. ゲームをすることに対する制御の障害(例:開始、頻度、強度、持続時間、終了、状況)。
  2. ゲームに没頭することへの優先順位が高まり、他の生活上の利益や日常の活動よりもゲームをすることが優先される。
  3. 否定的な(マイナスの)結果が生じているにもかかわらず、ゲームの使用が持続、またはエスカレートする。

 その行動様式は、個人的、家庭的、社会的、学業的、職業的または他の重要な機能領域において著しい障害をもたらすほど十分に重篤なものである。
ゲーム行動の様式は、持続的または一時的そして反復的かもしれない。
ゲーム行動および他の特徴は、診断するために通常少なくとも12ヶ月の間にわたって明らかである。しかし、すべての診断要件が満たされ症状が重度であれば、必要な期間は短縮するかもしれない。

ゲーム依存症 - Wikipedia 

これをまとめると、以下のようになります。

  • ゲームをすることをコントロールできない(頻度が多い、時間が長い、止められない、どんな状況でもやってしまう)
  • 日常生活よりもゲームを優先する
  • 健康や勉強、仕事などに問題が起きてもゲームを続けるまたはエスカレートする
  • 家族や社会、学習、仕事に重大な支障が生じている
  • 上記の状態が1年以上続いている(しかし、すべての条件に当てはまり、症状が深刻な場合、1年未満であってもゲーム障害と診断される場合がある) 

DSM-5とICD-11の基準の違い

個人的な理解に基づくものですが、以下のような違いがあるように思われます。

  • DSM-5は研究用診断基準ですが、ICD-11の基準よりも項目が多く、さらに記述が具体的なので内容が分かりやすい
  • DSM-5ではインターネットを介して、人々が集団で行うゲームを主に想定していると思われる。そのため”インターネット”ゲーム障害としているのだろう。ICD-11では、インターネットを介しているかどうかは関係ないようです。そのため、下位分類で、”主にオンライン”、”主にオフライン”と分類しているのだろう。
  • DSM-5のインターネットゲーム障害では、オンラインゲームの使用を含まない過剰なインターネットの使用との鑑別診断を書いていますが、過剰なインターネットの使用がどの診断に当てはまるのかは書いていないので、わかりませんでした。

 まとめ

  • DSM-5では、インターネットゲーム障害(internet gaming disorder)
  • ICD-11では、ゲーム症(障害)(Gaming disorder)
  • ゲームをコントロールできなくなり、本人や家族に支障が出ている状態

 ゲーム障害は新しい概念であるため、支援者が不足しています。ゲーム障害の予防や心理支援については、次回のブログで紹介しようと思います。