心理学ブログ

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ゲーム障害やネット依存などの依存を中心に、30代半ばの中堅公認心理師(臨床心理士)が心理学の知識や関連する話題などについて書いていきます

人の感情を定義するのは難しい!恐怖と不安の心理学的違い

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この間、お仕事のとある事情で「不安」と「恐怖」という感情について調べる機会がありました。感情の概念や定義を調べるというのは大学院受験や臨床心理士公認心理師試験の時以来で、普段はしないことですが、非常に良い経験だったと思うので、自分のためにも整理してまとめてみました。

不安と恐怖の違い

辞書的意味の違い

まずはそもそもの言葉としての意味の違いを知るために、goo辞書で調べてみました

  • 不安の辞書的意味

気がかりで落ち着かないこと。心配なこと。また、そのさま。

  • 恐怖の辞書的意味

おそれること。こわいと思うこと。また、その気持ち。

「恐怖」の説明で、「恐れる」「怖い」と「恐怖」という漢字を使って説明されてもよく分からないですね。

そこで、さらに「怖い」をgoo辞書で調べてみました。

1 それに近づくと危害を加えられそうで不安である。自分にとってよくないことが起こりそうで、近づきたくない。

2 悪い結果がでるのではないかと不安で避けたい気持ちである。

3 不思議な能力がありそうで、不気味である。

不安と恐怖の違いは分かりましたか?

不安と恐怖の心理学的違い

それでは、心理学的には不安と恐怖という感情にはどのような違いがあるのでしょうか?

ぱっと浮かぶのは、不安は対象物が不明確で、恐怖は対象物が明確である感情ということです。つまり、不安は、何に対して不安を感じているのかはっきりとは説明しづらく、恐怖は、〇〇が怖い(例えば、暗いのが怖い、大きな犬が怖いなど)と説明できるという違い。大学の授業のテストでは、たぶんこれくらいの説明でも十分だと思います。でも、今回はもう少し概念などまで調べる必要があるので、調べてみました。

  • 不安の心理学的意味

心理臨床大時点で調べても、不安の明確な定義は書かれていません。大まかには、恐怖と対照させた上記と同様の記述がありました。それ以外には、実存主義哲学者のキルケゴール(Kierkegaard,S)やハイデガー(Heidegger,M)、フロイトFreud,S)の精神分析的研究、日本では笠原嘉の研究などを挙げている。そういった中で、スピルバーガー(Spielberger,C.D)の定義が載っていた。

恐ろしいという判断を基礎とした、恐怖の予期などの不確かな心理的要因が伴う情緒であり、日常的に用いられる不安は多くの場合、複雑な反射や反応を含んでおり、生活体の不安や緊張状態はその時々に応じて変化するが、人格特性として用いられる不安は不安状態に対する永続的な防衛によって特徴づけられるものであり、個人によってその広がりは異なってくる。

これを読んでもいまいちわからないですが、下線を引いた箇所だけを読むと、不安は恐怖に近いけど、不確かな情緒というふうにも理解できる。やはり対象が明確な不明確かという点が不安と恐怖の違いのようです。

  • 恐怖の心理学的意味

同じく心理臨床大事典で調べてみると、こちらは恐怖という項目立てがそもそもなく、「恐怖症」という項目の中に、恐怖についての説明があり、フロイトFreud,S)の精神分析的考え等が載っていますが、恐怖そのものの定義は書いてありませんでした。

さらに恐怖について調べていくと、「アルバート坊やの実験」で有名な恐怖条件づけや、各種の恐怖症状について書かれています。ここら辺の内容であれば、大学院受験や臨床心理士試験の時に学んだ内容なので、非常にわかりやすいですね。

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不安と恐怖の症状としての違い

心理学的意味の違いの次は、精神医学的違いを調べてみることにしました。そのために、DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアルを見てみることにしました。

DSM-5には、「不安症群/不安障害群」というのがあります。その最初に以下のような説明があります。

不安症群は、共通して、過剰な恐怖および不安と、関連する行動の障害特徴をもつ障害を含んでいる。恐怖は、現実の、または切迫していると感じる脅威に対する情動反応であり、一方、不安は、将来の脅威に対する予期である。これらの2つの状態は明らかに重複しているが、以下の点で異なっている。恐怖は闘争または逃避のために必要な自律神経系の興奮の高まり、危険が差し迫っているという思考、および逃避行動とより多く関連しており、不安は、将来の危険に対処するための筋緊張および覚性状態および警戒行動または回避行動とより多く関連している。

これを読んでやっと少しずつ理解できたような気がしてきました。

もう少し精神医学的違いを理解するために、「不安症群/不安障害群」の中で、「不安」、「恐怖」が入っている疾患名を分けていきたいと思います。

不安:分離不安症、社会不安症/社交不安障害(社交恐怖)、全般不安症

恐怖:限局性恐怖症、社会不安症/社交不安障害(社交恐怖)、広場恐怖症

不安の方は、対象が不明確で、恐怖の方は対象が明確であることがわかります。しかし、社会不安症/社交不安障害(社交恐怖)は、1つの疾患名に不安も恐怖も入っています。診断的特徴のところにも、本質的特徴は、社交状況に関する著明または強烈な恐怖または不安と書かれています。恐怖と不安は明確に分けられないところもある、概念であり、感情のようです。

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感情の概念を学ぶ意味

カウンセラーとしての普段の仕事をする時には、不安と恐怖という2つの感情の違いをここまで厳密に分けて考えることは少ないかもしれません。

でも、今回機会があって調べてみたことで、心理学や精神医学上での不安と恐怖の違いが今までよりも理解できた気がします。

定義を提唱する人によって定義の内容が異なり、統一見解がされていないために、明確な定義は難しいのだろうと思います。そもそもの概念を定義するのは難しいですよね。でも、そのそもそもの概念を知ることで、そこから作られた疾病分類や心理検査心理療法などがより理解できたり、カウンセリングでの不安や恐怖の語りへの理解に繋がったりするのではないかと思います。

機会がなければ、臨床に出てから不安と恐怖の概念の違いを調べるために、論文や本を読むことは、あまりないと思いますが、今回は機会があって不安と恐怖の概念的違いを調べてみました。

まとめ

  • 不安が対象が不明確、恐怖や対象が明確な情動
  • 定義することは難しく、明確に分けられない部分もある
  • 感情の概念を理解することが役に立つ