心理学ブログ

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ゲーム障害やネット依存などの依存を中心に、30代半ばの中堅公認心理師(臨床心理士)が心理学の知識や関連する話題などについて書いていきます

カウンセリングで認知の歪みを治す方法を教わってきて

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カウンセリングでは、たまに相談者の方が主治医や家族、会社の人などから勧められたから来所することがあります。

その時の勧められ方として、タイトルにあるように「カウンセリングで認知の歪みを治す方法を教わってきて」と言われることがあるようです。

今回はこの「認知の歪み」について書いていきます。

認知の歪みとは

認知の歪みという言葉は、認知療法創始者であるアーロン・ベック(Aaron Temkin Beck)が抑うつの発現と維持を説明するモデルの中で言い始めたようです。

認知とは、物事の受け止め方や思考のことで、これが現実と比べて著しくずれている場合を「認知の歪み」と言ったようです。

認知行動療法

上で書いている認知療法と、それよりも前からある行動療法を合わせたものを認知行動療法を言います。

認知行動療法についてざっくりと説明すると、ある問題や悩み、困っていることを、客観的出来事と、その個人の内面(認知・行動・感情・身体反応)に分けて捉え、認知又は行動を変容させて、その問題を解決させる様々な方法の総称の事です。

認知の歪みの修正(矯正)のためのカウンセリングを勧められる

周囲の人から見ると、その人の認知(物事の受け止め方、考え方)がおかしいから問題が生じている。だから、その認知を修正してもらうためにカウンセリングを受けてきたら?と言うのでしょう。

ネットで調べると、認知の歪みを修正するための方法が認知行動療法を書かれていることが多いので、そのように思ってしまうのも無理はないと思います。

カウンセリングを勧められた人は、自分が普通の人とは異なる、歪んだ認知を持っているからカウンセリングを受けないといけないんだと気持ちが落ち込んでしまうかもしれません。

でも、認知が歪んでいるって、どういうことなんでしょうか?

非機能的認知

以前、認知行動療法の研修で、ある先生がこんなことを言っていました。

「認知の歪み」という言い方をする時、それは正しい認知と正しくない認知があるという前提になっている。でも、今あなたがしている認知が正しいとは証明はできない。なので、歪んだ認知というものはない。

ただ、この状況でそのような認知をすると問題(気分の落ち込み、対人関係上の問題など)が生じることはある。その状況においては、そのような認知をしてもうまく機能しないということはある。だから、「非機能的認知」と言う。

つまり、その人の認知が正しいか間違っているのかを判断するのではなく、ある状況下では機能しない(もしかしたら別の状況下では機能するかもしれない)認知があるだけなんだろうと思います。

そして、非機能的認知をポジティブで前向きな認知に修正するというよりも、他の視点の認知もできるよう付け加えたり、自分の中にすでにある適応的な認知があることを自覚できたりするようにアプローチしていきます。認知の修正というより認知を柔軟にするという言い方をする先生もいます。

日本認知療法認知行動療法のホームページでも以下のように書かれています。

3)認知療法では,認知のパターンを修正することにより,治療効果を得ようとする.

認知モデルは感情障害における認知の重要性を指摘していますが,認知療法の治療目標は認知の障害そのものを修正することではありません.抑うつや不安などの精神的な症状を改善するために,認知という側面からアプローチするのです.認知のパターンを修正することを通して,不快な感情の改善を図り,問題解決へとつなげていくこと,それが認知療法の目標なのです.

ここで注意すべきことは,患者の否定的思考(negative thinking)を肯定的・積極的思考(positive thinking)に転換することが重要ではない点です.認知療法は,ある状況をみる視点はいくつも存在すること,その中には患者の否定的思考よりも適応的(adaptive)・現実的(realistic)な視点が存在しうることを,患者が自覚できるように援助します.(以下略)

日本認知療法認知行動療法ホームページより引用

認知の歪みの一覧

いわゆる「認知の歪み」と言われているものを紹介します。上記で書いたように、一概に悪いものではなく、使いようによっては良い面もあります。良い面として使うためには自分の「認知のクセ」を知っていることが必要です。

白黒思考(全か無か思考、スプリッティング)

曖昧さを受容せずに完璧でないと受け入れられない、物事を「白か黒か」「0か100か」と極端に考えること。

例えば・・・

「完璧にできなければ、失敗と同じだ」考え、長時間残業しても仕事をしてしまう。

長所は・・・

物事の判断基準がはっきりしているため、スピーディに物事を進めやすい傾向にある。

べき思考

自分や他者に対して「~すべき」「~でなければならない」と考えること。ルールに縛られて苦しくなり、自分や他者の失敗を許せず怒りや緊張を感じやすい。

例えば・・・

「仕事の資料はすべての情報を調べて完璧な状態で提出しなければならない」と考え、休日も資料作成を行う。完璧に行えないと、自分を責めやすい。

長所は・・・

決めたらやり通す意志が強いタイプとも言える。評価される結果を出しやすく、周囲から頼りにされやすい。

心のフィルター(フィルタリング)

物事全体のうち、悪い部分の方を認知しやすく、良い部分が認知されにくい。

例えば・・・

テストで98点だったが、「どうしてあの問題をミスしてしまったんだろう」と考える。

長所は・・・

より良くしようとする向上心に繋がりやすい。

過度な一般化

たった1~2回起こったことや根拠が不十分なことでも、それがいつも生じると考えること。「いつも」「絶対」「必ず」「すべて」「間違いなく」などと考えやすい。

例えば・・・

一度のミスを「私はいつも同じ間違いをする」と考える。

1回忘れ物をしただけで「なんて自分は物忘れが激しいんだろう」と否定的に考えやすい

長所は・・・

同じ失敗をしないように対策を立てやすくなる。

マイナス化思考

すべて悪い方向に考える傾向。良いことがあっても無視するか、悪い方にすり替えてしまう。うまくいったことは「たまたま」「運が良かっただけ」「相手の調子が良かったから」と自分以外に原因を帰属しやすい。

例えば・・・

「今日怒られなかったのは相手の気分が良かっただけ」と考える。

仕事に対して「こんなことは誰にだってできる。どうして自分はできないんだろう」と考えやすい。

長所は・・・

自分の中でできていないところを見つけようとするので観察力が付く。

結論への飛躍

心の読みすぎと先読みの誤りの2種類がある。

心の読みすぎは、他の可能性を考慮せず、他者の考えや気持ちを、一方的に推測し、そうに違いないと決めつけること。

例えば・・・

会話中に相手が時計を見たら、「私とは話したくないと思っているのだろう」と考える。

長所は・・・

相手の表情を読み取ることが得意な、気配りのできる優しいタイプとも言える。

先読みの誤りは、確かな理由がないにも関わらず、他の可能性を考慮せず、未来を否定的に予想すること。

例えば・・・

「初めてやる仕事だから、きっと失敗するだろう。」と先読みし、気分が落ち込み、それにより実際に仕事で失敗する。

長所は・・・

「初めてやる仕事だから、きっと失敗するだろう。」と考え、失敗しないように準備する慎重なタイプとも言える。

拡大解釈、過小解釈

例えば・・・

良くないこと(失敗、弱み、脅威)は最悪のことまで連想したり、大げさに捉えたりすること。必要以上に心配や不安が大きくなりやすい。良いこと(成功、強み、チャンス)は実際よりも大したことがないと捉えやすい。

長所は・・・

良くないことに対しては、考えられる最大限の対応をしやすい。成功や何らかの達成には必要以上に浮かれることがなく、謙虚な姿勢でいられる。

感情の理由付け

自分の感情を根拠に物事を判断すること。

例えば・・・

「上司と話していると気持ちがざわざわするから、きっと上司は私のことが嫌いに違いない」

長所は・・・

自分の感情をモニタリングしやすい。

レッテル貼り

合理的な根拠を考慮せず、自分や他者に対して固定化した否定的な決めつけをすること。まるで事実であるかのように思い込むこと。

例えば・・・

「私はできないことばかりで無能だ」と自分にレッテルを貼り、自分の良い所が目に入らなくなり、自分が嫌になる。

長所は・・・

思い悩むことなく結論を出しやすく、割り切りがよく、躊躇せずに決断する傾向にある。

誤った自己責任化(個人化)

自分がコントロールできないような出来事に関して、自分に責任があると考えやすい。

例えば・・・

電車が遅延して客先に遅れてしまった場合でも、「自分が悪いんだ」と考える

長所は・・・

自分事として考えられ、責任感が強い。

まとめ

今回は認知の歪みについて書きました。

  • 認知に正しい、間違っているはない
  • 認知の歪みの修正というよりは、認知を柔軟にする
  • 認知のクセは誰にでもある。自分の認知のクセを理解して、うまく使いましょう

認知行動療法の他の内容も知りたい方は、こちらもご覧ください。

 

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