心理学ブログ

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ゲーム障害やネット依存などの依存を中心に、30代半ばの中堅公認心理師(臨床心理士)が心理学の知識や関連する話題などについて書いていきます

生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入

カウンセリングには様々な流派や技法、アプローチがあり、それぞれの理論に基づいたアセスメントと介入の方法が存在します。
初学者のうちは特に、どのアプローチを学んだらよいのか迷うことが多いと思います。また、他のカウンセラーや対人援助職(例えば、医療系であれば看護師、教育系であれば学校の先生等)と情報共有やケースカンファレンスをする際に、前提となるアプローチの仕方やケースの見立てが異なっていると、やり取りに苦慮することもあります。
そのような際に活用しやすい生物心理社会モデルと用いたアセスメントと介入を今回は紹介します。

 生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入の具体例

 生物心理社会モデルは疾患を生物学的要因、心理的要因、社会的要因の3つの要因から総合的に捉え、介入アプローチを考えます。
生物心理社会モデルの基本的な内容を知りたい方はこちらを参照してください。 

生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入の概要 

生物心理社会モデルに基づいて、クライアントを包括的にアセスメントし、そのアセスメントに基づいた介入方法の立案までの方法とフォーマットを、近藤直司先生が作成しています。

近藤直司 - Wikipedia

医療・保健・福祉・心理専門職のためのアセスメント技術を高めるハンドブック【第2版】――ケースレポートの方法からケース検討会議の技術まで

近藤先生は精神科医として、精神保健センターと児童相談所で勤務されている時期に、ケース検討会議や事例検討形式の研修などでケースレポートを聴く回数が多くありました。そのような経験から、ケース検討会議の効率化、事例検討形式の研修の効果を高めるため、アセスメントの力量を高めるために、ケースレポートの方法を作成しました。元々はケースレポートの作成・ケース検討会議のための方法として考えられましたが、個別のカウンセリングにも十分応用できます。
この方法は情報収集-アセスメント-支援課題-支援計画という4つの段階に分けて考えます。

生物心理社会モデルを用いたアプローチの具体例

情報収集

情報はカウンセリング中にクライアントが話された内容だけでなく、表情や仕草といった客観的に見えるもの、客観的データなども含まれます。
例えば、不登校気味の児童とのカウンセリングであれば、以下のようになります。

  • 「A君とは仲良しだよ」と言っている。
  • 暗い表情で、小さい声でしゃべる。
  • テストの結果(算数〇点、国語△点)

この情報は次のアセスメントと明確に分けることが重要です。情報は客観的に観測が可能なものであり、アセスメントはその情報を基にした解釈や推測(主観)です。

アセスメント

アセスメントは、生物的、心理的、社会的の3つの要因に分けて考えます。アセスメントは主観的な解釈、理解、仮説のため、絶対の正解というものはありません。しかし、なるべく正確なアセスメントをするためには、情報との整合性を考えることが重要です。
今回はわかりやすく生物的、心理的、社会的要因にきっちりと分けていますが、実際の臨床でアセスメントしていくと、どの要因に分けていいのかわからない場合も出てくると思います。その場合は厳密にどちらかの要因に分ける必要はありません。生物的要因と心理的要因といった複合的要因にまたがる場合も十分に考えられます。
上記の例をアセスメントすると以下のようになります。

  • 相性の良い子とであれば、良好な対人関係を築けるのだろう(社会的)
  • 自尊心が低く、自分を表現することが苦手と思われる(心理的
  • 生得的に知的発達の遅れがあるのかもしれない(生物的)

支援課題

アセスメントに基づき、必要と思われる支援課題を考えます。抽象的な表現ではなく、実際に介入が可能な課題を立てていきます。あまりにも大きな課題だと支援計画を考えにくくなるため、これなら支援できそうと思えるくらいの課題を立てるのが重要です。
今までの例で言うと、以下のようになります。

  • 登校しやすい環境設定
  • 自分を表現する機会の確保
  • 知的能力の評価

支援計画

支援課題に対応した具体的介入プランを考えます。具体的な支援プランというのは、「誰が」「どんな方法で」「いつまでに」をはっきりさせることです。例えば以下のようになります。

  • 今度の席替えの時にA君と同じ班になるように担任が調整する。
  • 週1回、自分を表現できるようなカウンセリングをカウンセラーが行う。
  • 1か月以内に、子どものWISC受検について担任が保護者に提案する。

今回は例のため、1つの情報に対して→1つのアセスメント→1つの支援課題→1つの支援計画としましたが、実際にはいくつもの情報から1つのアセスメントをすることになります。

生物心理社会モデルを活用するメリット

カウンセラーとしてのスキルアップ

この生物心理社会モデルを意識することで、カウンセラーとして重要なスキルが上がると思われます。
情報収集-アセスメント-支援課題-支援計画という4つの段階を意識することで、どこが足りないのか、どこを改善したらいいのかが分かりやすいです。
支援課題と支援計画を立てにくい理由として、アセスメントが不足していることが分かれば、どの情報が必要なのかが分かりやすいため、必要な情報を得るための意図を持った質問をしやすくなります。また、情報収集したどの客観的情報によってどのようにアセスメントしたかが分かりやすいため、アセスメント力が身に付きやすいです。

情報共有やケースカンファレンスがしやすくなる

皆さんは誰かと情報共有する時に、もっとわかりやすく伝えられたら良かったのに、と思ったことはありませんか?ケースカンファレンスで話し合ったけど、誰が何をしたらいいのかわからないまま終わったことはありませんか?このモデルを活用すると、情報共有やケースカンファレンスがしやすくなります。
例えば、上記の例であれば「この子はテストの結果が算数〇点、国語△点でした。そのため、生得的に知的発達の遅れがあるのかもしれません。そのため、まずは知的能力の評価が必要だと考えます。知的能力の評価をするために、子どものWISC受検について担任が保護者に提案するのはいかがでしょうか?」と言うことが出来ます。これは、この情報から、このようにアセスメントしました。それに基づき、このような支援課題があり、このような介入が考えられる、という流れで話しています。

他職種連携がしやすくなる

カウンセラーは様々な領域で、様々な職種の人達と連携しながら支援することが多いですが、各専門家のスタンスや拠って立つ理論が異なるために、必ずしも連携がやりやすいとは限りません。このモデルは汎用性が高く、どの領域、どの職種の人達との連携にも活用できます。

 まとめ

今回は生物心理社会モデルと用いたアセスメントと介入を紹介しました。
あまりメジャーではないかもしれませんが、非常に汎用性が高く、シンプルなモデルのため、使いやすいと思います。
また、このモデルを意識することでカウンセラーのスキルアップが期待できたり、他職種との連携やケースカンファレンスがしやすくなったりしますので、活用してみてはいかがでしょうか。

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今回の内容に興味を持った方は、以下の記事もご覧ください。

 

sinri-psychology.hatenablog.com