心理学ブログ

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ゲーム障害やネット依存などの依存を中心に、30代半ばの中堅公認心理師(臨床心理士)が心理学の知識や関連する話題などについて書いていきます

生物心理社会モデルでゲーム依存を理解する

f:id:igarashi1220:20211231103745p:plain先日、カウンセリングスペースやどりぎのオンライン研修「ゲーム障害の支援・三者三様の視点から」を、オンデマンド配信の最終日に見ました。

この研修は、依存症の治療で有名な久里浜医療センターの樋口院長と臨床心理士精神保健福祉士の3人がそれぞれの視点からゲーム依存、ネット依存についてお話していました。

この研修自体が、医師、臨床心理士精神保健福祉士というそれぞれの視点からゲーム依存を話す研修であるため、その構成自体が生物心理社会モデルとなっていました。

これを読んだ方が、少しでも生物心理社会モデルやゲーム依存についての理解が深まったらいいなと思いつつ、自分の理解も含めて、研修の感想を書いていこうと思います。

生物心理社会モデルとは

生物心理社会モデル(bio-psycho-social model)はジョージエンゲルが1977年に提唱した、人間の疾患を包括的に理解し、アプローチするためのモデルです。

カウンセラーだけでなく、医師、看護師、保健師、保育士、ソーシャルワーカー作業療法士、教師等々、様々な対人援助職が使える汎用性の高いモデルです。

生物心理社会モデルの詳しい内容は過去の記事をご覧ください。

sinri-psychology.hatenablog.com

sinri-psychology.hatenablog.com

生物心理社会モデルで理解するゲーム依存

ゲーム依存の子どもを支援する際には、その子個人の事だけでなく、その子が置かれている状況や周囲の人達との関係性等も含めてアセスメントして理解した上で関わることが重要です。

その時に、生物心理社会モデルの枠組みで話を聞いていくと、カウンセラーは理解しやすくなりますし、理解しやすくなれば親御さんや本人とも共有しやすくなると思います。

生物学的要素

この要素のアセスメントは、カウンセラーはついついおろそかにしがちなところかもしれません。ゲーム依存で特に重要となる生物学的要素は、例えば以下のようなものがあります。

ASD自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)などのいわゆる、発達障碍傾向、知能(IQ)の偏り

この分野のアセスメントはカウンセラーが普段からしているところですね。本人からの聴取や行動観察、親御さんからの成育歴の情報収集等でもできますが、より詳細に行う場合は、医療機関心理検査のできる機関へリファーする場合もあります。

身体的発育状態、栄養状態

ゲームを長時間行うことで、運動や食事をしなくなり、栄養状態が悪くなったり、骨密度が低くなったりするそうです。それにより朝起きられなくなったり、気分が不安定になったりしやすくなります。生物学的要因により生じている状態や症状をカウンセラーは、その子の内面としての感情や認知から生じていると考えがちです。

カウンセラーは心理面から支援する職種なのでそのように考えやすいのは仕方ないですが、生物学的要因をおろそかにしがちという自覚をもってアセスメントしていく必要がありますね。

心理学的要因

心理学的要因には様々なものがありますし、それぞれが独立しているわけではなく相互に関係しています。

感情

抑うつ症状がみられることもあります。しかしこれは、元々抑うつ症状があったことでゲームという行動に逃避行動をしているのか、ゲームを行うことで親から叱られ、抑うつ症状が出現したのかには注意が必要です。

自尊感情の低さも指摘されています。これも抑うつ症状と同じように、自尊感情の低さが先か、ゲーム依存が先かはわかりません。

好み

好みとは、ゲームを含めてその子が好きな事です。子どもは基本的には親に連れられてくることが多いと思います。その時にいきなりゲームをどうやったら辞められるかの話をされたら、次からは来たくなくなるでしょう。

そのため、ゲームを含めた好みや好きなことを聞くことで、無理やりゲームを辞めさせようとしているわけではないことを知ってもらうことが重要と思います。また、ゲーム以外で好きなことを聞くことで、のちのちゲーム以外の活動性を上げるための情報にもなります。

社会的要素

社会的要素は幅の広い要素かなと思います。その子が置かれている状況などによっては、さらに様々な社会的要素があるでしょう(例えば、医療機関に受診していれば主治医、教育相談所に行っていれば、そこに相談員など)。

家族(親、きょうだい、祖父母など)

ゲーム依存は親との関係悪化(特に父親)が指摘されています。本人-母親、本人-父親だけでなく、母親-父親の関係性も必要によってはアセスメントすることになるでしょう。また、きょうだいや祖父母がいれば、それらの人達との関係性もアセスメントが必要です。

学校(担任、スクールカウンセラーなど)

ゲーム依存から学力低下不登校になることも多く、その場合、親(特に母親)が学校やスクールカウンセラーと相談していることが多いと思います。特に、最初に相談するのが開業カウンセリングオフィスということは少なく、どこかですでに相談していて紹介で来られたり、その相談先の助言を聞いてもうまくいかなかったためにご両親がネットで調べて来られたりすることが多いです。

友人(リアル、オンライン)

ゲーム依存から不登校になった子どもでもリアルの友人(クラスメイトなど)とオンラインゲーム上で交流があるということも珍しくないようです。

また、オンラインでの関係性も、その子を理解する上で重要な情報となります。対人関係上の苦手さを持っている子もいると思いますが、オンラインゲーム上では、ゲームに関するやり取りが主なので、現実世界でのコミュニケーションのような曖昧さがなく、コミュニケーションしやすいのかもしれません。

また、ゲームがうまければ褒めてもらえるので、自尊感情が上がり、褒めてもらうためにはさらにゲームを長時間プレイして上手くなる必要がある。それで強くなればさらに褒められるという循環が生まれます。

これらの傾向は実態調査の結果からも指摘されています。詳しい内容は過去の記事をご覧ください。

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ゲーム

ゲームの種類は様々あり、どのゲームをしているのかは、その子の好みが見られると思います。そのため、どのようなゲームをやっているのかも、その子のアセスメントに役立つと思われます。

FPS、TPS

FPSファーストパーソン・シューティングゲームの略で、操作するキャラクター本人の視点で戦うシューティングゲームです。

TPSはサードパーソン・シューティングゲームの略で、操作するキャラクターを追う第三者視点で戦くシューティングゲームです。

MORPG(Multiplayer Online Role-Playing Game)

「複数プレイヤー参加型オンラインRPG」などと訳され、オンラインゲームの一種でコンピューターRPGをベースとしたものを指す英語。複数のプレイヤーがネットワーク(インターネット)を用いて一つの世界で同時にRPGをプレイする。(Wikipediaより)

MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)

「大規模多人数同時参加型オンラインRPG」のことである。オンラインゲームの一種でコンピューターRPGをモチーフとしたものを指す。(Wikipediaより)

個人的にはネットゲームといえばMMORPGのイメージがあります。

これら以外にもスマホゲームや据え置き型のゲーム(PS5など)もありますね。ゲームの種類で分けると、バトルロイヤル、パズル系、シューティング、格闘、RPG

大きく分けると複数人でチームを組んでプレイするか、1人でプレイするかでしょうか。

まとめ

ゲーム依存は本人の心理的な面だけでなく生物学的な面、社会的面である様々な対人関係が複雑に絡んでいます。それを1つずつ理解していくための方法として生物心理社会モデルについてまとめてみました。

ゲーム依存については他の記事にも書いていますので、興味を持った方はこちらもご覧ください。

 

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